祖父の天敵

父の評価だと、叔母は、死んだ祖父を上回る頑固者らしい。

余談だが、父は、祖父の死後、実は祖父より祖母の方が頑固だったと言い始めた。周囲を頑固者扱いをする張本人の頑固性は、今後私が公平に判断する予定だ。

叔母は、隣町の進学校に行きたかったが、祖父に「地元の高校で良い」と希望進路を妨げられた。叔母は、以後一切の勉強を断ち、成績を急降下させる暴挙に出た。流石の祖父も、志望校への進学を許可せざるを得なかった。

「頑固」という一見ネガティブな性質も、視点を変えれば「物事を強引に動かす力」とういうポジティブな見え方をすることもある。

ある朝、私は、一階から聞こえる「揉め事」で目が覚めた。

祖父が、レンジで温めた牛乳を床にばら撒いたらしかった。牛乳のみならず、マグカップも床に横たわっていた。祖父の様子は明らかにおかしく、言葉も覚束ない。父が救急車を提案するも、祖父は断固拒否だ。日課の血圧の薬を飲んで、様子が落ち着いたのでその日はそれで終わった。

無理やり病院に連れて行けば良いだろうと思うかも知れない。甘い。あなたは本当の頑固を知らない。

ある時、肩関節に異変を感じた祖父は、ダンベルで三角筋を鍛えるトレーニングを始めた。関節に異変を感じた時は、安静が鉄則だと素人でもわかる。父と私で、止めるよう説得するが、案の定聞く耳を持たない。私たちは交渉を諦めた。祖父は、その独自の診断と治療法で肩関節を完璧に破壊し、手術入院が決まった。

そういう男に、凡人の交渉術は通用しない。

マグカップ事件の翌日、父は一枚上手の交渉人、叔母を連れてきた。叔母は、前日病院行きを断固拒否した強者を、秒で論破しタクシーに詰め込んだ。

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