卒業

今日、初めて産業医面談があった。

産業医事務所は東京にあり、ZOOMを経由して。

人との会話にもかなり慣れて来た私は、産業医との会話は、寧ろ楽しんだ。

産業医から「『会話する限り』うつ状態を感じない」との「お褒めの言葉」を頂いた。

面談の開始は十一時三十分であったが、可能であれば、リワークの午後の「授業」に出たかった。面談は当初、六十〜九十分とアシスタントから聞いたが、私の流暢な説明により、予定時間を満たずに終了した。

私は鮮やかに午後の「授業」開始十分前に教室に到着した。

講師は五年前に出版された、「LIFE SHIFT(ライフ・シフト)―100年時代の人生戦略」を導入として授業を始めた。

未だ来ぬ未来を不安に思うことは決してマインドフルではないが、百歳まで生きるとして、果たして、いつ迄労働できるだろうか。年金はいつから 貰えるのか。或いは、本当に貰えるのか。貰えないとして、死ぬまでに必要な資産を労働年齢の間に形成できるのか。

恐らくうつ状態を脱出したと思われる私でも、こうした漠然とした不安は拭えない。

いつうつ病が再発するかわからない。その時頼れる家族が居るかもわからない。

リスクヘッジの為パートナーを儲けても良いが、そんな現金な理由でパートナーを儲けて良いはずもない。仮に儲けたとて、人生が百年あるとするなら、そんなに長い間他人を私の人生に縛り付けて良いとも思わないし、私もそんなに長く縛られたくない。

生命の使命は二つ。

個体を延命すること。

子孫を残すこと。

「子孫を残すこと」は「個体を延命すること」にとっての「負債」になる為、「恋愛」という「麻痺装置」がないと「子孫を残すこと」は実行されない。残念ながら若い頃の様に「麻痺装置」が作動する気配は今の所無い。

いや、人生百年あれば、もう一度くらい「麻痺装置」が作動する事もあるかもわからない。

時計屋から着信があったので、リワークの帰りに時計屋に寄る。亡き祖父から貰った腕時計の交換用ベルトが到着したに違いない。

店で伝票と腕時計を渡すが、中々終わらない。

程なく店員が申し訳なさそうに私に声を掛ける。

「今よく見てみたら、ここのネジが外れてまして、防水性の観点から、修理に出した方が宜しいかと存じますが、如何なさいますか」

と時計の病状と治療費の説明があった。

祖父の形見の時計である。二つ返事で修理を依頼した。

私のアイフォンは、写真アプリ内の良き写真をその時々で、ホーム画面に表示させる仕様にしてある。帰りの電車を待つホームで、携帯を確認すると曽孫を抱く祖父と義理の弟の三人が写し出されていた。

何と無く祖父が見守ってくれている気がした。

いや、これは偶然であるし、

私が執拗に老いや死に拘っているので、そういう情報を勝手に収集して構成するので、必然とも言える。

セントラルステーションで下車した際に見かけた、大学の卒業式を終えた女子大生の袴姿が、私には眩しすぎた。

「あ、そうか。俺ももうすぐ卒業だな。」

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